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裁判員経験者交流会2010/09/21

第1回裁判員経験者交流会(2010/9/20実施)の報告・感想

■裁判員経験者による記者会見記録

・日時:2010年9月20日(月)16:10~16:50 ・場所:東京都渋谷区◯◯大学会議室 ・記者会見参加裁判員経験者:5名(一名を除き名前の公表可、全員写真撮影可) ・記者会見には、上記5名の他の2名の裁判員経験者も、フロアに同席した。

【経験者による交流会感想・報告】 *牧野弁護士 ・自分が司会をするまでもなく、経験者達から堰を切ったような発言が続き、自由で活発な議論ができた。別室で経験者を中心に行われたため、安心した相互の交流が実現できた。 ・経験者7名が参加したが、だれも裁判所が提供するメンタルヘルスケアの電話相談サービスなどを利用した人はいなかった。

*経験者A ・3日間の審理を共に行った人にこの交流会で会えるのではないかと思って参加した。(同様の意見多数)

*経験者B ・被告人が控訴はしなかったようだが、今どのような刑に服しているのか、ということについて知りたい。 ・自分たちは真剣に審理にかかわっていたので、裁判後も裁判所は我々をフォローしてもらいたい。 (控訴され、控訴審の判決が出たとしてもそれについての連絡がない。裁判員達は、一審で真剣に事件を考えた「関係者」なのに、事件のその後について何も知らされないというのはおかしいではないか、という意見)

*経験者C ・期間が短いものは2日、長いものは2週間とばらつきがある、日数の問題についてこれから考えてもらいたい。 (選任されてから裁判を行うまでに期間をあけてほしい。その方が心の準備もできるし、仕事との折り合いもつけやすい、という趣旨。) (また、裁判員経験者の裁判中の休みについて、その職場での待遇がまちまちである、との意見があった。)

*経験者D ・たまたま選ばれて経験をしたのだが、裁判員制度がこれからも続くのであれば、これをより良いものにしていくため協力したい。 ・守秘義務について。実際どこまでどのようにしたら良いのかわからず、この交流会に参加した。今回守秘義務についての専門家の説明を聞けてよかった。 (守秘義務の範囲の不明瞭さは、これからの対処すべき課題と思われる。)

*経験者E ・他事件ではあっても同じ裁判員を経験した人と今回同じ場で語らうことで、気持ちが楽になった。 ・今回は素晴らしい体験であり、良い意味での責任感がわいてきた。 ・またこのような機会を持つことができればいい。

*牧野弁護士 裁判所は、裁判中の対応は丁寧だが、終わってからは裁判員に対し冷たい傾向があるようである。

*西村臨床心理士 ・裁判所での電話相談サービスが「あると言われても・・・」、自分が利用しようとすると「心が弱い」というレッテルを貼られるようで、連絡しづらいのではないか。 ・経験者達がお互いに抵抗なく安心して語らえる場が整えられるべきである。 ・今後、死刑求刑など今まで以上に裁判員に心理的負担のかかる裁判がおこなわれることも予想される。

*経験者E ・裁判員たちは、例えて言えば山で一緒に遭難した者同士のような感情があり、いわば「戦友」と会いたい、という想いがある。 ・今回は別の裁判を経験した人同士であっても、和やかに話し合うことができ大変良かった。 (同じ経験をした裁判員の人に会いたい、という意見が多い。次回の交流会には、他の裁判員経験者達と誘いあってこようという人もあった。)

【メディアとの質疑応答】 *メディアA Q:同じような経験を共有するための提案は出たか?現状では連絡先の交換等ができないようだが。 A:(牧野弁護士)なんとか連絡を取り合いたい、という意見多数であった。今後はネットワークHPにてチャット・掲示板形式の交流を検討したい。

*メディアB Q:今回「お互いに話し合って、気持ちが楽になった」というお話があったが、別室での交流の中で印象に残った言葉・共感した言葉を教えてほしい。 A:(経験者A)担当した3日間は無我夢中だったが、アンケート用紙に回答したり、テレビの取材等を受けるうちに「とんでもない経験をしてしまった」という責任を感じた、と言っている人が自分以外にもいることがわかりほっとした。自分の場合、被告人は台湾人だったので、中国語を勉強して受刑中の被告人に簡単なハガキを出してみたい、という思いがある。 A:(経験者C)自分は2010年2月に裁判員を経験した。争いのない事件であったので、割と楽だったと感じている。 A:(経験者D)裁判員経験後、大事な場面に立ち会ったということで皆が被告人のその後について考えているということを知ることができた。被告人の運命を決定した裁判員である以上、もはや「他人」ではなく、ある意味で当事者であり、裁判員は被告人のその後について知りたいと皆が思っているということが分かった。 A:(経験者B)被告人が刑期を終え出所後、更生を果たすまでが「裁判」であると感じているのが自分だけでないということを知って、気持ちが楽になった。 A:(経験者E)自分が被告人を「罰している」という思いは、一生抱えていかなければならない。あるシンポジウムで自分が担当した事件の被告人の弁護士に再会し、「自分が被告人に会い、直接声をかけたいと思っている」ことを同弁護士から被告人自身に伝えてもらえたことに、とても感動した。市民の(裁判員の)方がプロ(の裁判官たち)以上に被告人について考えていると感じた。

*メディアC Q:裁判員選任のための召喚通知がまた来たら、もう一度裁判員を引き受けるか? A:(経験者D)1回で十分。自分はそれほど立派な人間ではないし、プロではないので被告人の今後が気になって仕方ないので。 A:(経験者C)せっかくこの制度がある以上、再挑戦したい。 A:(経験者B)たぶん当たらないと思うが・・・機会があればやってもよいかな。被告人について考えることで人生を2倍、3倍と生きられるように感じる。自分の視野が広がったように思う。また機会があれば受けても良いかなと思うが、実際にそうなったらどう判断するかは分からない。 A:(経験者E)逃げたいが、今後人間性を高めて挑戦するかもしれない。しかし、おっかない。病気になりそうなくらい考え抜くあのエネルギーを持って臨めるだろうか? A:(経験者A)その時になってみないとわからない。短期間に判断力、人間力を要求され、非常なエネルギーを使うので。

*メディアD Q:裁判員経験者として人に話をする際、守秘義務に触れるかどうか迷ったことはあるか? A:(経験者D)口を閉じていた。守秘義務の範囲がよくわからず、話出しても気になって控えてしまう。「裁判員を経験した」ということは語ったが、詳しい内容については語っていない。 A:(経験者C)聞かれなかったし、自分から話すこともなかった。 A:(経験者B)車いすで参加したのでそれに関して聞かれることが多く、事件そのものの感想について詳しく聞かれたことはなかった。 A:(経験者E)個人的な取材を受け名刺交換した後取材が殺到し、その際に思いのたけを語ったので妻には話していない。聞かれることはあっても、守秘義務が気になるのでそれほど答えない。 A:(経験者A)裁判長に直接どこまで話してよいのか守秘義務のラインを尋ねた。

*メディアE Q:別室の交流会での議論の中心はなんであったか? 話せてよかったことはなにか。 A:裁判員を経験した仲間ともっと話したかったということ。裁判所の対応は、審理中は裁判員達を宝物を扱うように丁重だが、終わった後は「はい、さようなら」という状態であること。

*市民団体代表A Q:他の人に裁判員としての参加をすすめるか? A:(経験者D)ぜひ参加してもらいたい。とても良い経験になるし、知らないことがたくさんあり、経験することによって知ったことが良い方向に発展していくと思う。市民が参加しやすい状態にして、制度がより良い方向に向かってほしい。 A:(経験者C)参加することに意義がある。ぜひ参加してもらいたい。 A:(経験者B)やるべき。目からうろこが落ちたように、人生の見かたが広がるので、ぜひやってもらいたい。 A:(経験者E)判決を言い渡す時に感動した。被告人に対する最初の考え方が大きく変化した。つまり、審理の過程で自分自身が変化した。このことを裁判員候補者の人に自分の言葉で伝えたい。 A:(経験者A)ピュアでクリーンな気持ちを持って、健康に裁判員裁判に臨んでもらいたい。

以上

●レポートが掲載されました。 「裁判員経験者ネットワークの意義と展望―裁判員参加の画期的役割 生の声収集と心の負担軽減」 牧野茂弁護士(週刊法律新聞:平成22年10月8日「論壇」)

■交流会参加者の感想

●もっとずっと一緒にいたかった 裁判員経験者(男性・茨城県)

当日はとてもわくわくどきどきしながら都内に入りました、そして相当早く着いてしまいました。 待ちに待ったという気持ちです、経験者のみなさんが私と同じような意見、悩みをお持ちだったのが何か嬉しくほっとしました。もっとずっと一緒に居たかったですね。

・私は平成21年11月26日~11月27日、水戸地裁で裁判員を経験しました。私と同じ裁判を経験された方はネットワークまでご連絡ください。お待ちしております。

●裁判員“経験者”が語った“未経験者”へのメッセージ 関根英生(文化放送報道制作部長)

「第1回裁判員経験者交流会」で 裁判員“経験者”が語った“未経験者”へのメッセージ~ 「知らないことがたくさんあって、それが経験することで知り得たことが、いい情報として、いい形として発展していくことが大きな利益になります」 ~何と深く、優しく、しなやかなメッセージなのでしょうか。

「裁判員経験者交流会」は経験者たちが集い共に語り合うことでその貴重な体験の意義を見つめ直し、再確認するとともに他人には語れなかった問題点や疑問点などが吐露できる「場」であり、市民参加裁判を実施する上では必要不可欠だと思います。

同時に、交流会で語られる裁判員経験者の声はこれから経験する(可能性のある)裁判員を勇気づけてくれる貴重な情報になります。つまり経験者にとっても未経験者にとっても実に有意義な集いと言えるでしょう。

「第1回裁判員経験者交流会」への裁判員経験者の参加者は7名でした。告知方法や告知量が十分とはいえない中、「7人もよくお集まり頂いた」というのが正直な感想です。同時に大変貴重なお話をお聞かせ頂いた事、裁判員経験者の方々と主催された事務局の方々に大変感謝致します。是非、この「裁判員経験者交流会」が2回、3回~100回と継続して発展することを祈念いたします。

●交流会の感想 志田玲子(フリージャーナリスト)

「裁判が終わった後、被告人の『その後』を気にしている人が他にもいると知って、気持ちが楽になった」記者会見の席上で、ある裁判員経験者が 口火を切ると、「僕も同じ」と相槌を打つ声が続きました。裁判員の任務自体は判決宣告をもって終了しますが、当事者の中ではまだ終わっていないのです。

「被告人の運命を左右する仕事に真剣に取り組んだからこそ、『その後』が知りたい。しかし裁判所は、自分たちが決めた判決が確定したのか、控訴されたのかすら、教えてくれない」「経験者は心の中で、被告人の人生に一生関わっていかなければならない。裁判所には、判決や被 告人の『その後』について、もっと積極的に情報提供して欲い」。私の取材経験から言っても、経験者のみなさんは控訴の動向を非常に気にかけ、その後の報道を入念にチェックしています。ある弁護士によれば、「裁判所は公判中は丁寧に扱ってくれるが、判決が出た途端に『はい、さよなら』」という感想をもらす経験者が、とても多いそうです。裁判所もまだ手探りの状態なのでしょうが、裁判の「その後」に関する経験者の「知る権利」は、もっと尊重されてもいいのではないでしょうか。

会見でもう1つ印象に残ったのは、「同じ裁判で裁判員を務めた『同志』と再会できるかもしれない」という期待感をもって参加した経験者が、圧倒的に多かったこと。ある経験者は「戦友」と表現していましたが、経験者のみなさんは、かつての「戦友」と「あの時はこうだったね」などと振り返りながら、共に語り合う機会を切望しているのです。そういう意味で、こうしたネットワークづくりは大変意義深いこと。経験者のみなさんに とっては、心の負担を共有する癒しの機会になるでしょうし、報道関係者にとっても、経験者が語る宝石のような「生の声」を、来年、再来年の裁判員候補者に届けることができます。

将来、地方ごとのネットワークができれば理想的ですね。

●交流会の感想 David Johnson(ハワイ大学教授)

I think that on the whole the session was a big success. I do hope it continues.If it does continue, it might be a good idea to have a little more attention paid to other issues about lay judging in addition to the “psychological burden” issues that were covered last time.

I think it would also be good to have a session that focuses on the death penalty and lay judging–perhaps after there have been one or two capital trials.

●裁判員の体験に学ぶ 飯考行(弘前大学准教授)

初の裁判員経験者交流会に参加する機会に恵まれました。交流会自体は非公開でしたが、経験者7人の方々は、裁判に参加した思いを口々に語りあい、親交を温めたとのことです。ある経験者の方は、まるで「戦友」に出会ったようだと喜んでいました。考えてみれば、いきなり裁判所から呼び出されて、日々の暮らしから引き離され、罪の重い事件の裁判に立ち会い、見ず知らずの裁判官と裁判員とともに、被告人の一生を左右しうる重要な判断を、限られた日数のうちに無我夢中で行う体験は、非日常的なものに違いありません。

記者会見で複数の経験者から語られたのは、被告人と関わっていたいという思いです。判決に参加して罰した以上、自分たちも当事者なので、被告人のその後を知りたいし、更生をきちんと果たすまでが裁判員裁判だというのです。被告人と喫茶店で話したい、服役する台湾国籍の被告人に中国語を勉強して簡単な手紙くらい書きたい、という発言には驚かされました。また、他人である被告人の人生を考えることで、2倍、3倍生きて視野が広がった気がする、人生観が変わった、という声も聞かれました。もう一度裁判員を務めたいかという記者の質問には、再挑戦したいという人のほか、エネルギーが必要だし、被告人の今後が気になって仕方なくなる、として答えを留保する人がいましたが、他の人に裁判員の体験を薦めるかを質問されると、全員、ぜひともやるべきだと応答していました。

裁判員裁判を傍聴すると、裁判官のみの裁判に比べて、被告人と被害者の法廷での言い分が傾聴され、血の通った人間的なものに感じます。これは、裁判員が、裁判の判断という、初めての、しかも一生に一度だけかもしれない、被告人の一生を左右しうる職責を、被告人と被害者の言い分に熱心に耳を傾けて、懸命に果たそうとしているためでしょう。裁判員経験者に対する各種調査結果によれば、裁判員を経験してよかったという人がほとんどです(裁判所調査で96.7%)。他方、経験者の3人に2人(67%)が裁判で心理的な負担やストレスを覚え、15%の人は裁判後も負担を感じています(NHKニュースによる)。この一見相反する裁判員の経験をどのように整合的に説明できるか、思案にくれていましたが、交流会で触れた裁判員経験者の体験が、その答えを出してくれたように思います。

深刻な精神的被害を受けた裁判員経験者には、専門家によるカウンセリングや診療など、いわば外科手術を要しますが、その他の裁判員にも、経験者で交流し、互いの語らいを通じて裁判で抱えた傷を癒しあう、いわば温泉療法があってしかるべきでしょう。裁判員経験者の交流には、体験を発信することで、未経験の市民の心配を和らげ、裁判員制度の改善に役立てる効用もありえます。私を含む法学研究者にとっても、裁判員経験者の声は、裁判や司法について、裁定にとどまらず、本来、犯罪で引き起こされた地域の傷を受けとめ、修復し、関係者の更生をはかる性質を帯びているのではないか、再考をうながすインパクトがあると思われます。裁判員の体験にこれからも学ばせていただければ幸いです。

●交流会の感想 明賀英樹(弁護士)

交流会に参加して、裁判員経験者が被告人の判決後の人生について深く考えていること、したがって自分たちが下した判決の後に控訴・上告があったのかやその結果がどうなったかを知りたいと皆考えているということを聞きました。また直接的・間接的にでも、事後に何らかの形で関与したいと考えている方もいました。裁判員になった方々が、いかに真剣に審理に臨み被告人に真剣に向き合っているかがよく分かり、感銘を受けました。

裁判所としても、この経験者の声に応えて、判決で終了とするのではなくその後の情報提供(希望者に対し)を検討すべきだと思います。また、経験者の声を聞く機会や交流する機会を積極的に設けるべきだと考えます。

経験者の真剣な思いを聞き、法曹としての刑事裁判に対する姿勢を問い直される思いがしました。

●裁判員経験者が初の交流会 小池振一郎(弁護士)

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